この年の3月8日、東京地裁は女性の「命の値段」に関して先進的な見解を示す判決を出しました。トラックにはねられて死亡した東京都在住の小学6年生の女児(当時11)の父親が、運転していた男性とトラックを所有する工務店を相手に約4000万円の支払いを求めた訴訟の判決で、東京地裁は女児の逸失利益を「女性の平均賃金」ではなく、「男女の平均賃金」で算定したのです。
それまで最高裁は、現実の社会にある男女の賃金格差が逸失利益の算定に反映することを容認する判断を示しており、下級審もそれを踏襲していました。その結果、交通事故の逸失利益の算定には、厚生労働省の発表する賃金センサスによる男女別の平均賃金が被害者の性別に応じて用いられ、未就労の年少女子の逸失利益は、男子よりも少額になっていました。つまり、「命の値段」にも男女格差があったということです。
この裁判では、生きていれば得られた「逸失利益」をどう算定するかが一番の争点となりましたが、この判決では、「年少者は将来多様な就労の可能性があるのに、現在の男女の賃金格差を算定に反映させるのは可能性を性の違いで差別する側面がある。最近では女性をめぐる法制度、社会環境が大きく変化して賃金格差の原因となっている就労の形態も変わってきており、男性の占めていた職業にも女性が進出しつつある」という理由から、「性の違いで差別する側面があり男女平等の理念に照らして適当でない」と判断し、「未就労の年少女子が死亡した場合」に限定して、「全労働者の平均賃金を採用することがより合理的だ」と結論づけ、男女を含めた全労働者の平均賃金を基準として逸失利益を算出しました。この場合、女性労働者の平均賃金を用いるよりも約400万円高い、約2100万円が損害賠償額となります。
被告側は「今後の社会で男女間の賃金格差がなくなることは望ましいが、現在の社会、経済の情勢では格差がなくなることに高い可能性があるとは言えない」と主張して女性労働者の平均賃金を用いるよう求めていました。しかし、この判決以降「まだ就業していない年少者の逸失利益は男女の平均賃金で算出する」という動きが定着するようになっていったのです。
★この年の主なできごと★
国家公務員の旧姓使用全省庁でOKに。 :26月、それまで運用が各省庁に任せられていた職場での旧姓使用が全省庁で使用可能となることが公式に認められた。旧姓使用が認められたのは「職場での呼称」「座席表」「電話番号表」「原稿執筆」「人事異動通知」「出勤簿」「休暇簿」の8項目。決済印などは各省庁の判断に委ねられる点はまだまだ不徹底な印象だが、運用基準が統一されたことである省庁では可能だったことが別の省庁では認められないという「省庁格差」が解消した。また、この動きが民間企業での旧姓使用の追い風となった。
内閣府世論調査で選択的夫婦別姓に賛成する人が、初めて反対派を上回る :8月に内閣府が公表した世論調査では選択的夫婦別姓に賛成する人が、初めて反対派を上まわった。これを受けて自民党のなかにも、民法改正を協議するプロジェクトチームが誕生。座長は自ら夫婦別姓を実践する野田聖子代議士で、若手議員11人が中心となり、国会に政府案を提出するよう党内の署名活動をはじめた。しかし、党内の意思統一ができず結局政府案提出は断念することに。