働く女性の50年史(20)

 

1988(昭和63

仕事での「旧姓使用」を求めて女性大学教員が提訴

皆さんの会社では結婚後も旧姓を仕事上の通称として使っている人がいませんか? 現在では官公庁も含め、かなり多くの場で通称使用が浸透してきています。しかし、かつては本人が望んでいるにも関わらず、通称使用が認められなかった時代もあるのです。

 関口礼子さんは1982年に図書館情報大学の助教授に就任した際に論文などに使用してきた旧姓を引き続き使用したいという希望がありました。ところが、当時旧姓の使用が認められた範囲はとても限定的なものでした。特に給与支払い、人事の発令、研究費の申請などが戸籍名に限定されると日頃使用している姓と異なるので同一人物であることがすぐに分かりません。大学側からたびたび戸籍名使用を強制されることで不便な思いをした関口さんはこの年、ついに大学を提訴することにしたのです。

 提訴の具体的な要件は、通称使用の禁止は人格権・自己決定権の侵害、戸籍名の表示はプライバシー・氏名権の侵害であり、国は通称表示を義務づけること、さらに、図書館情報大学の一連の侵害行為による損害額と慰謝料の支払いを求めたことでした。

 93年の東京地裁での判決は一部却下、一部棄却で、「戸籍名を使うのは合理的」であるとの判断が下されました。関口さんは控訴し、最終的に1998年の東京高裁で「研究・教育分野での旧姓使用を認める」という形で和解となりました。しかし、この和解によって旧姓が全ての分野で使用可能となったわけではありません。かっこ付きで旧姓を併記するものや相変わらず戸籍名を強制される部分も残り、決して完全に満足な内容とはいえないものでしたが、それでも日常的に支障がない程度まで通称使用が認められることになったのは大きな前進というべきでしょう。

 しかし、自分が名乗りたい名前(それも全く新しい名前ではなく過去に使用実績のある名前)を名乗るために10年にもわたって裁判を起こさなくてはならないというのは、精神的にも物理的にもあまりに大きな負担です。これは、ひとえに民法で夫婦別姓が認められていないことが原因です。この裁判の弁護団のひとりだった福島瑞穂弁護士は現在少子化担当相となり、足かけ20年にわたる「選択的夫婦別姓」の実現に向けて動き出しているところです。

 

★この年のできごと★

男女雇用機会均等法で一部上場企業の7割が「採用は男女不問」:労働省(当時)の調査によれば、1986年に施行された男女雇用機会均等法以後、一部上場1054社の大卒採用では「男女不問」が7割を超した。しかし、就職活動をした学生からは「これは形式的に女性を排除していないというだけであり、実際は相変わらず女性の総合職採用はごく少数」という指摘が相次いだ。

 民間会社の育児休業制度は14%:労働省(当時)の「育児休業制度実態調査」で民間会社の育児休業制度は14%であることが判明。対象は圧倒的に女性だが、男女とも取得できる短時間勤務制度を86年から導入した西友の「ベビーケアタイム・システム」が話題に。

 

 

 

 

新着コラム

働く女性の50年史

1969(昭和44)年「男性55歳、女性30歳という女性のみ若年定年制は無効」の判決(東京地裁)

最新のブックッレビューは「100文字レシピ」(川津幸子著)です。

ごあいさつ

福沢恵子

「女性のキャリア形成支援」「男女共同参画」「大人の学びなおし」をメインテーマに取材や講演を手掛けて30年。仕事を通じて「誰もが自分らしく生きることができる社会」の実現に関われたらと思っています。 

オフィス所在地

アドレス

〒105-0011 東京都港区芝公園2-6-8日本女子会館ビル5階OWL

※メール/フォームからのお問合せを24時間受付しております。