働く女性の50年史(18)

 

 

 

1986(昭和61

男女雇用機会均等法施行「コース別人事制度」導入 

この年の4月1日から男女雇用機会均等法が施行されました。この法律は募集・採用、配置・昇進について女性と男性を均等に取り扱う努力義務、教育訓練、福利厚生、定年・退職及び解雇について、女性であることを理由とした差別禁止を定めた内容でしたが、「努力義務」は違反しても罰則がないことから、労働者側からは「実効性に乏しい」という批判を受けました。また、経営者側からは「女性を男性と均等に扱うことは悪平等」という激しい抵抗がありました。このような対立の中で、労働省(当時)は法案の成立そのものを諦めるよりは「最初から完全な法律が作れなくても、とにかく法案を成立させることが重要」という苦渋の選択を迫られました。

 男女雇用機会均等法の施行によって生まれたのが「コース別人事制度」です。「性別」による差別がいけないのなら「職種による待遇の違いは合法」というわけで、男性は自動的に総合職、女性は圧倒的多数が従来の補助的仕事である「一般職」、ごく少数が昇進昇格も男性と均等の「総合職」という「コース別人事制度」が多くの商社や銀行などで導入されました。つまり、均等法の施行によってごくわずかの女性に「男性並の待遇と可能性」が開かれたとはいうものの、圧倒的多数の女性にとって働く環境は変わらなかったのです。

 この年、人事院は国家公務員の女子保護規定改正を行い、男女差別解消の一環として、深夜勤務・時間外労働の制限緩和や生理休暇の廃止などが行われました。これはつまり「平等を求めるのなら男性と同等の労働条件を引き受けろ」ということです。しかし、男女平等とは「女性が男性の基準に合わせること」ではありません。世界的に見ても決して恵まれた労働条件とは言えない男性の労働条件に女性が合わせることは、月経や妊娠・出産などの身体的負担があり、現実的には家事や育児の大半を女性が行う状況では、女性に過剰な負荷を強いることになります。その結果「家事や育児の責任を引き受けたくない」と考える女性たちが出てきてもそれはむしろ自然というべきでしょう。現在の少子化の原因のひとつはこの頃にあると言えそうです。

★この年の主なできごと★

国民年金の第三号被保険者制度開始 :サラリーマンに扶養されている主婦(主夫も含む)は掛け金を払わなくても国民年金が受け取れる「第三号被保険者」となる制度が開始。「主婦の年金権確立」と言われたが、実際は独身男女や共働きの女性たちの掛け金が財源になっていること、同じ専業主婦でも自営業の夫を持つ妻の場合は自分で掛け金を払う「第一号被保険者」となることなど、等制度上の不備や不平等も目立ち、批判の声もあがった。

夫婦間レイプで夫に有罪判決: 夫が友人と共に暴力で妻と性関係を強要したことは婦女暴行罪にあたるとして、鳥取地裁が有罪判決。 それまで夫婦間の暴力についての司法判断は避けられていたが、婦女暴行罪が夫婦間に初めて適用された。「DV」という言葉はまだ存在していなかった当時、画期的な判断とされた。

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ごあいさつ

福沢恵子

「女性のキャリア形成支援」「男女共同参画」「大人の学びなおし」をメインテーマに取材や講演を手掛けて30年。仕事を通じて「誰もが自分らしく生きることができる社会」の実現に関われたらと思っています。 

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